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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)545号 決定

抗告人 甲野春子 外二名

相手方 乙野一郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。抗告人らの補助参加申立を許可する。申立費用は相手方の負担とする。」との裁判を求める、というにあり、その理由は別紙のとおりである。

よつて検討するに、戸籍上実親子関係にあるものとして記載されているからといつて法律上の親子関係を生ずるものではなく、したがつて非嫡出子が虚偽の出生届により実父母でない他人の嫡出子として届け出られ、戸籍上その届出に基づく記載がされても、なお非嫡出子たる身分を失うものではないから、かかる者は、戸籍に記載されている嫡出親子関係の不存在確認の訴えを提起し、勝訴の確定判決を得て戸籍上の記載を訂正するまでもなく、直接認知の訴えを提起することができるのであり、両訴の間に先決関係その他の牽連関係が存するものではないのである。しかるところ、抗告人らは、相手方が原告となり、検察官を被告として提起した本件親子関係不存在確認訴訟(東京地裁昭和五七年(タ)第三六八号、以下「本件訴訟」という。)の確定判決の既判力が抗告人らに及ぶことを問題にするが、特定の訴訟の既判力が自己に及ぶというだけで当該訴訟に補助参加をする利益が認められるものでないことは、人事訴訟や形成訴訟の既判力が第三者に及ぶからといつて、直ちに一般第三者に右訴訟に補助参加をする利益が認められるものでないことからみて明らかであり、しかも、本件訴訟の確定判決の既判力は、相手方が乙野太郎の子であるか否か及び乙野秋子の子であるか否かにつき生ずるにとどまるから、本件訴訟において被告である検察官が敗訴したからといつて、相手方が別件として提起している認知請求訴訟(相手方が検察官を被告として東京地方裁判所に亡甲野三郎に対する認知の訴〔同庁昭和五七年(タ)第三五五号〕を提起し、抗告人らが右訴訟において検察官のため補助参加をしていることは本件記録に照らして明らかである。)の帰すうや抗告人らの身分関係、相続関係に直接の法律的影響を及ぼすものでないことも明らかであるから、右は補助参加の利益を基礎づける理由たりえないのである(抗告人らが引用する福岡高裁昭和四〇年六月二四日判決の事案は、当該訴訟の判決が補助参加申立人の身分関係及び相続関係に直接の影響を及ぼす場合であり、本件に適切でない)。もつとも、本件訴訟の請求の当否を判断するに当たり、実際上、抗告人らと関わりのある事実について審理が行われることは当然に予想されるところであり、抗告人らが本件訴訟に参加し、本件訴訟の審理が別件の認知請求訴訟の審理に事実上の影響を及ぼすことのないよう、相手方の立証に対し、抗告人において相手方が戸籍上の母秋子が懐胎した子であることについて、また甲野三郎の子でないことについて証拠を提出して検察官を補助する利益のあることは否定できないが、本件訴訟においては、相手方と亡三郎との間に父子関係が存することを積極的に認定することさえ法律上は要求されないのであり、右の利益は、ひつきよう、事実上のものにすぎないのである。そして、以上のような事情のもとにおいては、抗告人らが別件の認知請求訴訟に補助参加をし、かつ、右訴訟において、「本件訴訟の当事者間に親子関係が適法にしかもくつがえしえないものとして存在しているから、認知請求はそもそも由ないものである」との抗弁を提出しており、また、両訴訟の審理内容に実際上類似するところがあるからといつて、抗告人らに本件訴訟に対する補助参加の利益が認められるものではないというべきである。

してみれば、抗告人らは、民訴法六四条所定の「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」に該当するものとはいえないから、本件申立は理由なしとして棄却すべきであり、これと同旨の原決定は正当として是認すべきである。

よつて、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木潔 吉井直昭 河本誠之)

(別紙)

抗告の理由

一 原決定

被告人らは、相手方を原告、東京地方検察庁検察官を被告とする東京地方裁判所昭和五七年(タ)三六八号親子関係不存在確認請求事件について、昭和五七年七月二〇日被告に対して補助参加の申立をなしたが、同裁判所(原審)は同年七月二九日右参加申立を不適法につき却下する旨及び補助参加申立費用は補助参加申立人の負担とする旨の決定をなした。

尚原審が右の如き決定をなした理由は、相手方の認知請求に対し本件親子関係不存在確認請求が先決関係になく、法律上互いに無関係であること、及び抗告人らは本件訴訟の実質的相手当事者である乙野太郎、同秋子と何らの身分的なつながりを有しないことからして、いずれにせよ参加の利害関係なしとするものである。

二 原決定の不当性

抗告人らが、本件訴訟に補助参加申立をする「参加の利益」は、次のとおりである。

(一) 抗告人ら中、甲野春子は、亡甲野三郎(以下亡三郎という)の配偶者であり、甲野太郎、同夏子は亡三郎のそれぞれ養子、嫡出子たる長女である。

(二) 原審原告は、東京地方裁判所一部同係において亡三郎に対する認知請求事件を提起し、(昭和五七年(タ)第三五五号以下認知事件という)係争中であり、抗告人らはいずれも右訴訟に被告に対し補助参加している。

(三) 抗告人らは前項の認知訴訟において、本件の請求の趣旨記載の当事者間に親子関係が適法にしかもくつがえしえないものとして存在しているから、認知請求はそもそも由ないものであることを主要な抗弁として提出している。

(四) しかるに、本件訴訟において原審原告請求どおり請求の趣旨記載の当事者間に親子関係が存在しないことが確定されると、本訴訟の性格が、人事訴訟であるとする判例理論からは、人事訴訟法第一八条一項が準用され同法に定める対世的効力が抗告人らに及ぶ可能性が大である。とすれば、本件訴訟の結果により、前項の抗弁も抗告人らにおいて主張しえぬ結果となり、ひいては、前記認知事件の帰趨に影響を与えるおそれが十二分にある。その結果は抗告人らの亡三郎の遺産相続人としての財産的利害関係・親族関係の身分上の利害関係に重大な影響を与えることは明白であつて、これらの関係はまさに民事訴訟法第六四条の「訴訟の結果による利害関係」に該当するものと言わねばならない。(同旨、福岡高判昭和46・6・24下級民集16巻6号二二七頁)。

(五) 原審は、この点につき

「しかしながら本件における請求の趣旨記載の当事者間の親子関係は何ら適法に覆元しえないものとして存在するものではなく、本件のごとき訴えは認知請求訴訟の提起の前後を問わず、提起できるものであり、本件における原告の請求が肯認された上でないと認知請求がそれ自体法律上成立に由ない関係にあるものではないので、補助参加申出人の右(一)の主張はその前提において失当である。」と断じている。

しかし、親子関係不存在確認の訴えは、民法第七七二条の推定を受けない子についてのみ許されるものであり、同条に定める推定を受ける嫡出子については民法第七七四条に定める嫡出否認の訴えのみが許されるのであるから、原審が右のように一方的に断ずるのは、全く不当である。そこで、本件において、初審原告が民法第七七二条の推定を受ける嫡出子か否かが、最大の争点であるが、その点については、利害関係の強い抗告人らに参加を許可し、十分な立証活動をつくさせるべきである。(過去の親子関係存否確認の訴えを認めた最高裁大法廷判決最判昭和四五・七・一五民集二四巻七号八六一頁自体有力な反対意見が付されており、特にこの結果が全く第三者に自己の予期せざる身分関係を生じさせ、衝撃を及ぼすという重大さと比して検察官が被告となることは、十分な立証活動をなしえぬ点で問題とされていることが参照されるべきである。)

(六) 更に、初審原告の本件請求原因は、殆んど全く認知事件のそれと同一内容で、抗告人らにかかわりのある(甲野家の)事実主張も数多くあることも、形式的に別訴訟の形をとつていても内容上、両件の密接不可分な関係を如実に裏付けており、そのような密接な両件における一方の事件の「利害関係ある」抗告人が他方の件の「利害関係」についても肯定されるのは必然であると思料する。原審は、右関連は事実上の関連にすぎず、「亡乙野太郎、亡乙野秋子との間に何らの身分上のつながりがない以上、利害関係」がないとする。しかし前述のように本件親子関係不存在確認の訴えの既判力が抗告人らに及ぶ以上、右関連性があれば、参加の利益としては、十分といわねばならない。

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